水に顔をつけられない 大人が楽しむ姿、見せて 7/27
プールで海で、水遊びの機会が増える季節。でも中には、水滴が顔にかかることすら嫌がる子もいます。そんな子どもが、顔を水につけられるようになるにはどうしたらいいのでしょうか? コツを探りに、「水のプロフェッショナル」を訪ねました。
斉藤結菜(ゆな)ちゃん(4)は、水しぶきが顔にかかるのが苦手だった。幼稚園のプールも嫌がっていた。「プールは初めてだったから、緊張していたみたい」と母の直子さん(28)は話す。
ところが今年3月から週1回、スイミングスクールに行き始めて変わった。今では水を怖がらずに、楽しそうに通う。どんな「魔法」を使ったのか、イトマンスイミングスクール新百合ケ丘校(川崎市)の斎藤美紀コーチ(46)に聞いた。
1984年のロサンゼルス五輪に自由形リレーの選手として出場した斎藤さんは、25年以上、幼児クラスを担当している「水のプロ」だ。
斎藤さんによると、水が苦手な子どもは、過って浴槽に落ちるなどの経験から水に恐怖心を持っていたり、新しいことに慎重な性格だったりといったケースが多いという。「お母さんたちが無理にさせようとしても、まずしません」
では、どうすればいいのか。コツを探ろうと、斎藤さんが担当するジュニアクラスを見学した。主に4歳ぐらいの子が参加するクラスだ。
「雨が降ってきましたよー」。そう言いながら、斎藤さんがプールの中で子どもたちに水をかける。子どもたちも互いに水をかけあう。
「台風が来たー」。かける水の量が増えた。顔に水がたくさんかかるが、どの子も楽しそうだ。
斎藤さんが大事にしているのは、まずは見本を見せながら一緒にやるということ。しかも、「楽しそうに大げさに」。子どもは大人の楽しそうな姿を見て安心し、「これは楽しいことなんだ」と理解するようになるという。
普段の遊びと関連づけることも大切だ。
例えばスクールでは、プールサイドから水深50センチくらいに緩やかなすべり台を設置し、子どもたちに滑らせる。子どもにとってすべり台は、公園などで日頃から慣れ親しんでいる「楽しい遊び」。滑ると自然に顔に水がかかり、徐々に水は怖くないと感じるようになるという。「顔に水をかけることを目的化しない。遊びのついでにできるようにするのがコツです」
とは言え、シャワーが顔にかかることすら嫌がる子もいる。「水がかかるのは一切いや、という子だったんです」と言うのは、片山藍ちゃん(4)の母、蘭さん(33)だ。以前は顔を洗うのも嫌がり、ガーゼで拭いていた。
そんな子どもに斎藤さんは、「顔を下向きにしてあげましょう」とアドバイスする。
顔を下向きにした状態で後頭部からシャワーをかけると、水は鼻にかからず、流れていく。「子どもは水がかかった時に、どう呼吸をすればいいかわからない。きちんと呼吸できるように、鼻を確保した上で水をかければ、徐々に慣れていきます」と話す。
■シャワーで雨 風呂でかくれんぼ
家庭でできる練習法には、どんなものがあるだろう。
イトマンの教材が最初に挙げているのが、お風呂場で頭からシャワーを浴びたり、顔を洗ったりすることだ。
「そのときも遊びながらしましょう」と斎藤さん。例えばシャワーのヘッド部分を浴槽に沈め、水面から少しだけ出した状態でお湯をひねり、噴水のようにふき出させ、雨のように降らせる。あるいは「いないいないばあ」をして、子どもが両手で顔を覆ったら少量の水をかける。遊びながらだと、不意に水がかかっても喜んで続ける子が多いという。
ある程度できるようになったら、浴槽におもちゃを浮かべて、口や鼻からふーっと吐く息で動かしてみよう。息を吐くと水が顔にかかる。また、鼻から吐く息でおもちゃを動かそうとすると、口が水の中に入るので、息を止める方法も自然に身につけられる。
ここまでできれば、あと少し。洗面器に張った水の中で目を開けてみよう。1人で挑戦するのが難しければ、浴槽につかり、親子で遊びながらやってみるのも手だ。「かくれんぼするよ」と言いながら、抱っこして一緒に潜る。お父さん、お母さんの姿を見つけるために、子どもは水中で目を開けようとする。
斎藤さんは「苦手を克服させたいという気持ちは抑え、ひたすら子どもと遊ぶようにしましょう」と話している。