誤飲、防止と対処法は シール・紙…危うく窒息 6/8

 一歩間違えば大事になりかねない子どもの誤飲。シールやティッシュペーパーなど思いもよらないものが原因になることも。未然に防ぐ方法と万が一の対処法を探ります。

 横浜市の主婦(35)は2年前、当時1歳5カ月の息子の誤飲に遭遇した。居間で1人で遊ばせていたら突然、せきが聞こえ始めた。

 駆け寄ると、息子が自分の指を口に突っ込んでいる。「どうしたの!」。背中をたたいてのどに詰まったものを吐き出させた。出てきたのは、長さ2センチ、幅1センチほどの短冊形のシールだった。

 「まさかシールで窒息しかけるなんて。気づくのが遅れていたらどうなっていたか」と主婦は言う。

 東京消防庁によると、管内では、誤飲や窒息で救急搬送される0〜5歳の乳幼児が毎年約1千人いる。1日におよそ3人のペースで、うち約94%の事故が家庭で起きている。命にかかわる例はまれだが、一つ間違うと取り返しのつかないことになる。

 鈴の木こどもクリニック(東京都品川区)の鈴木博院長は「子どもの誤飲は、日常で使う紙やシール、ポリ袋の切れ端が多い」と話す。紙やシールをのみ込んでも、食道を通って胃に入れば、いずれ便として排出される。問題はのどに詰まったり気管に入ったりしたときで、鈴木院長は「呼吸困難で危険な状態になることもある」。

 東京都の調査によると、子どもが「誤飲しそうになった」または「誤飲した」もので最も多いのはティッシュや新聞紙などの紙類、次にシールの順だった=グラフ。

 紙やシールの誤飲は、特に0歳から1歳の子どもに多い。中毒性のあるたばこなどと比べると危険性が低いと思われがちだが、油断はできない。米国では、ベビーベッドで寝転がっていた生後3カ月の乳児が、そばにあったティッシュペーパーを口に含んで窒息死した例もある。

 都の調査では、親の体験談も紹介されている。「1人で遊んでいるので放っておいたら、突然『おえっ』と声。口いっぱいに新聞紙をほおばっていた」(0歳、女児)

 シールには様々な種類がある。「子どものズボンに虫よけシールをつけた。気づくと口の中にシールが入っていた」(0歳、男児)。ペットボトルのふたについているシールや、手帳用のシールなどでも同様の事例がある。

 また、新しい誤飲も報告されている。都は2012年、子どものいたずらを防ぐためコンセントに差すキャップに、誤飲の危険性があると注意を促した。保護者へのアンケートで、キャップを使用したことのある経験者614人中77人が、「子どもが自分でキャップを外し、口に入れたり、入れそうになったりした」と回答したという。

 ■危険物、届かぬ場所に

 子どもの誤飲はどう防いだらいいのか。

 京都市子ども保健医療相談・事故防止センター(京〈みやこ〉あんしんこども館)には、京都第二赤十字病院などで実際に処置した「誤飲例」が展示されている。1歳児の胃にあったホチキスの針、5歳児の気管に入ったクリップ。同センターの看護師中辻浩美さんは「子どもは何が危険なのかわからない。それを前提に家の環境を整えて」と話す。

 子どもの手が届く場所に誤飲しそうなものを置かない。床が散らかったらこまめに片付ける。薬や化粧品の入った引き出しは、鍵やストッパーで簡単に開けられないようにする。

 それでも万が一、口の中に入れてしまったらどうするか。まだのみ込んでいない状態なら落ち着いて対処する。大声で注意するのは禁物だ。子どもが驚いて息を吸い、口の中にあるものを飲んでしまう危険性がある。

 のどに詰まらせたりのみ込んだりしてしまった時は、「まず吐かせることが原則です」と京都府立医科大学名誉教授の澤田淳(ただし)・同センター長。舌の奥を指やスプーンで下へ押すと吐きやすくなる。

 絶対に吐かせてはいけない場合もある。マニキュアの除光液や灯油など揮発性のものは、吐いたものが気管に入って肺炎を起こす可能性がある。漂白剤など強酸・強アルカリの製品やとがったものも吐かせない。意識障害やけいれんなどが起きた場合と同様、すぐに救急車を呼ぶ。病院では「いつ、何を、どれくらい飲んだ」かを詳しく伝える。

 1グラム未満、1ミリリットル未満の誤飲であれば、体への影響はほとんどないとされるものもある。せっけんやクレヨン、食用油やシャンプーなどだ。子どもの様子が落ち着いているなら、まず近くの医療機関などに電話をして対処法を聞くのも手だ。澤田さんは「子どもの誤飲は、周囲が防ぐしかない。誤飲する前に整理整頓などで予防に努めてください」。(坂井浩和)

 <誤飲> 日用雑貨などを間違ってのみ込むこと。異物が食道に入ることを誤飲、気管に入ることを誤嚥(ごえん)というが、今回は、これらを区別せずに「誤飲」としている。

 ■子どもが紙やシールを誤飲した時は

(1)呼吸を確認する。呼吸できていなければ、すぐに救急車を呼ぶ。

(2)口を開けさせて、よく見る。手で取れそうなら素早くつまみ取る。

(3)手で取れないなら、子どもをうつぶせにして頭を下げた状態にし(乳児は親の手で固定、少し大きい子は親の立てひざで固定)、背中の中央を平手で4〜5回、少し強めにたたいて吐き出させる。

 ※呼吸が苦しくなる可能性があるため、何も飲ませないほうがいい。

 (鈴の木こどもクリニック・鈴木博院長による)
引用http://digital.asahi.com/articles/DA3S11179425.html