お箸の正しい持ち方 教室で練習「子どものうち」11/16

毎日の食事に欠かせない箸。「上手に持てない」と苦手意識がある子どもが多いようです。正しく持てるようになるためのヒントを、専門家に聞きました。

 「世界の人の何割がお箸でご飯を食べているかわかりますか?」。箸製造販売会社「兵左衛門(ひょうざえもん)」(本社・福井県小浜市)文化事業部の中道久次さん(70)の問いかけに子どもたちがざわついた。

 「答えは3割。その中でも、日本は、最初から最後までお箸だけで食べる唯一の国なんです。はさむ、つまむ、切る、はがす、すくう……。箸でできることはたくさんあるけれど、お箸を正しく持てないと難しい。食べ物の好き嫌いにもつながります」

 10月半ば、東京都台東区立金竜小学校で6年生を対象にあった「お箸知育教室」。箸の持ち方をクイズ形式で学んだり、正しい持ち方、使い方の指導を受けたりしてから、それぞれの手の大きさにあった箸を作った。箸を握るように持ってしまうという田島瑚雪さん(11)は「自分で作ったお箸を使うたびに、今日聞いた話を思い出せそう」。

 今回の「お箸知育教室」は区教委の橋渡しで開かれた。同教委は食育の一つとして、2008年度から希望する区立小中学校で知育教室を実施。食育関連なら各学校が自由に使える「食育予算」も年間2万5千円ずつ計上している。

 金竜小学校では今年、食育予算で、指をあてる部分に印やへこみがある練習用の箸を購入した。1年生から3年生が学級ごとに、交代で一定期間ずつ使う。

 2年生の北村唯香さん(8)は「練習用のお箸の時は中指を箸と箸の間に入れられるようになった」と喜ぶ。

 栄養士の宮嶋伸枝さん(60)は「保護者も正しくお箸を使えないことも多く、学校で教える必要がある。お箸の正しい持ち方は鉛筆の持ち方にも通じ、勉強面でのよい効果にもつながる」と話す。

 1998年に始まった「お箸知育教室」はこれまでに全国で約2千回開かれた。参加者は子どもに限らず、計10万人以上が箸の持ち方などを習った。講師の中道さんは「クセが強くなってしまっている大人のお箸の持ち方を直すのは難しい。子どものうちに正しい持ち方を教えてあげてほしい」と話す。

 では、正しい持ち方と練習方法は? 自宅でもできる手順をまとめた(図)。コツは、まずは上の箸だけで練習すること。そして、開閉が難しければ、下の箸を押さえた状態で上の箸を動かす練習を。「できないことをやるのは大人でもつらい。練習は、楽しく過ごしたい食事の時間以外に。親子一緒に、短時間の練習を繰り返し、少しできたらほめてあげて」

 ■マナー絵本・ホテルでレッスン

 箸や器を置く位置、尾頭つきの魚の食べ方、スープの飲み方――。子どもに知ってほしい食事のマナーは箸の持ち方以外にもたくさんある。では、どう伝えたらいい? そんな保護者の期待に応える絵本が売れている。

 『テーブルマナーの絵本』(高野紀子作、あすなろ書房)。2011年の出版から3年で約12万部売れた。動物のキャラクターたちとともに和食、洋食のマナーを学べる。バイキングや回転ずしといった外食先でのマナーも取り上げているのが特徴だ。

 山浦真一編集長(56)は「バイキングで食べ終えたお皿に、もう一度料理を盛っていいのか。大人も意外と知らないマナーを網羅できる実用絵本をつくりたかった。保護者が口で言っても身につきにくいマナーが、絵本を介することで自然と身につく、と喜ばれている」と話す。

 ホテルも子どものマナーレッスンに力を入れている。

 京王プラザホテル(東京都新宿区)は03年から、小学生とその家族を対象に「ファミリーテーブルマナープラン」を春休み、夏休み期間に開く。洋食と懐石の2コースで、スタッフのマナー指導を受けながら食事を楽しむ。

 同様の教室は各地のホテルでもあり、夏休みなどに開催するケースが多い。

 『子どもに恥をかかせない食事のマナー』(マガジンハウス)の共著があるクッキングプロデューサーの葛(かつら)恵子さんは「食事のマナーは一緒に食べる人、サービスをしてくれる人への思いやり。個食をさせず、色々な人と色々な場所で食事をさせることで、身につけさせてあげて」と話す。

 「お箸やナイフ、フォークの使い方に自信がないと気後れするもの。しっかり身につけて社会に出ることは、一生の財産です」(松尾由紀)